今日はとてもイヤなことがあったので、日記に書いておきます。イヤな、というか、怖かったことです。
今日は日曜日なので、お父さんはずっと家にいて、夜ご飯に付け合わせのサラダを作ろうと言いました。わたしは、お父さんの料理が上手だとはあまり思わないけれど、お父さんが料理をするとお母さんはたいていきげんが良くなるし、そのほうがわたしにとってはうれしいから、お母さんとお父さんと3人でキッチンに立っていました。サラダといっても、お父さんは普段料理なんて全然しないから、かんたんな、レタスをちぎってきゅうりのスライスしたのをのせるくらいのものです。わたしはまだ10才だけど毎日お母さんのお手伝いをするから、お父さんよりは料理できる自信があります。今日も、サラダを作るならきゅうりだけじゃなくてトマトとかピーマンのうすく切ったのとかをのせた方がいろどりがよくなるのになと思ったのです。それで、レタスをバシャバシャ水で洗ってる(水がもったいないからそんなに出さなくてもいいのに)お父さんに、ミニトマトをのせようよと言いました。お父さんはトマトが苦手です。でもわたしもお母さんもトマトは好きだし、赤色はきれいだし、のせた方がいいかなと思ったのです。そうしたら、お父さんがレタスを洗う手を止めて、わたしのほうをじっとみて、俺が全部決めるんだよ、と言いました。聞いたことがないくらい低くてじとっとした声でした。わたしは怖くなって、何も言えなくなっちゃって、たぶんぽかーんとお父さんの顔を見ていたんだと思います。そしたらお父さんがまた低い声で、はい、は?と言ったのです。わたしは小さい声で、はい、と言いました。そしたらお父さんが、わかったらいいんだ、と言いました。真顔でした。お母さんが、笑いながら、もう、早くしてよとお父さんを急かして、出来上がったサラダボウルをリビングに運んでいきました。
え、トマトをのせるかのせないか、って、そんなことでこんなにキレる?何がお父さんのかんにさわったのか全然わかりません。わたしが口ごたえしたからおこったのかな。でもトマトのせるかのせないかってそれだけのことなのに。
でも、そんなことより、あの時のお父さんが怖くて怖くて、今でも頭の中で何度も何度も再生されてしまってねられません。たかがトマトなんだけどもうこれはトマトの問題じゃなくて、あの時のお父さんの顔とか、声とか、はくりょくみたいなもの、はい、以外は言わせないぞ、という圧みたいな、そういうのが怖くて、でもお母さんは笑っていたからわたしの考えすぎなのかもしれません。お父さんはじょうだんのつもりだったのかもしれません。でもわたしには、お父さんはほんとうにおこっているように見えました。お父さんいわく、お父さんが、全部、決めるんだそうです。あ、そういえば、そういえば学校に出すお手紙も全部お父さんの名前だし、お母さんは何か買う時必ずお父さんに買ってもいいか聞いているし、そういえば、お母さんはお父さんの名字になっているみたいだし、お父さんはお母さんのことをお前と呼ぶけどお母さんはお父さんのことをあなたと呼ぶし、そういえば、そういえば、もしかして、お父さんが全部決めるというのは、全然まちがってなんかいなくって、お父さんは当たり前のことを言っただけだったのかもしれません。そう考えると、今日のことは別にイヤなことでも怖いことでもなかったのかもしれないな、と思います。