わたしはサカナなので暑くても平気です。陸の上は38度とかあるらしい。わたしはサカナ、焼かれたら食べられちゃうので陸の上には上がりません。ニンゲンはわたしのことを香魚とか言って頭の中までほじくって美味しい美味しいと食べるらしい。わたしの香りはわたしが育った川の中の、砂や苔やプランクトンの香り。みんなそれぞれ違う香りなのに、「鮎の香り」なんて一緒くたにしないでほしい。気分を害します。川べりの石の照り返しで丸ごと溶けてしまえばいいのに。自分たちが好きなように暮らしたせいなのに、毎日毎日暑い暑いと不満たらたらで、そんなに言うなら、わたしみたいに水の中に住めばいいのに。人間にはエラがなくて息ができないし、皮膚がふやふやになってしまうらしい。あんなに大きな図体じゃ、浅瀬で浮くことだってできっこない。それは、ほんとうに、かわいそうなことだね。